絵本の力

ある日、小学生になったばかりの男の子と一緒にJON KLASSENの「I WANT MY HAT BACK」という本を一緒に読みました

この本は「This is Not My Hat」「We Found a Hat」と合わせてHatシリーズとも呼ばれる本のうちの一冊で、とても人気のある本です。

それぞれ「どこいったん」「ちがうねん」「みつけてん」と日本語訳されて発売されているので、ご存知の方も多いかもしれません。

どれも字数が少なく、ほのぼのとしたとぼけた絵なので、普通は可愛らしい系のお話を予想すると思うのですが、実はこの三冊のうち「I Want My Hat Back」「This is Not My Hat」は予想外にブラックなのですよね。

「I Want My Hat Back」は帽子をなくしたクマさんがいろいろな動物たちに「僕の帽子見なかった?」と聞いてまわり、やがてウサギさんが自分の帽子を持っていたことに気付いて取り返しに行くというストーリー。そしてはっきり書いてはいないのですが、おそらくクマさんはウサギさんを食べてしまったんだろうという結末です。

そのお子さんは、非常に集中して絵を見ていたので、匂わせてるだけのその結末をしっかり理解していたのだと思います。

そして次の週のこと。

その子はもう一回「I Want My Hat Back」を読みたいと言って来ました。そして絵本を手にしながら以下のように話してくれたのです。

「ウサギはリスのお誕生日会に行くところだった。だからパーティーにぴったりのクマの帽子が欲しかったの。(言われてみればクマの帽子はパーティー用のとんがり帽子に見える)

どうしてウサギは帽子を買わないで盗ったのかというと、クマには小さすぎるから盗ってもいいと思ったの。(確かにクマには小さ過ぎるサイズ)

ウサギはリスと待ち合わせをしてたんだけど、リスはお母さんから用事を頼まれて待ち合わせ場所に遅れて行ったの。そしたらクマがウサギを食べ終わったところだったの。(だからリスはクマにウサギさんを見なかったかと尋ねたのか・・・)

どうしてクマがそんなに怒ったかというと、帽子はクマさんが小さい頃お母さんからプレゼントされたもので、すごく大事にしていたの。だからクマは怒ってウサギを食べたの。(うーん納得・・・!)」

なんとその子の頭の中で、なぜクマがウサギを食べなければならなかったのかを裏付ける完璧なストーリーが構築されているではありませんか。

きっと死を匂わせる結末を、思ったよりずっと深く受け止めていたのでしょう。そしてそれを自分の人生に置き換え、一週間かけて向き合って消化したのでしょう。

これぞ「考える」という行為だと思います。まだ一年生なのによくぞ頑張ったものだと私は胸がいっぱいになりました。本当に感動しました。

と、同時に絵本の力も改めて感じました。

今の時代、テレビやゲーム等、面白いエンターテイメントは沢山あると思います。

そうした とことん作り込んだゲームやテレビアニメとは正反対に、全ての情報を究極まで選りすぐり、濃密であると同時に読み手が自由に考えを巡らすことができる余白をも提供できる上質なコンテンツ、それが絵本だと思います。

改めて そんな絵本の力を感じさせてくれた その男の子に 深く感謝すると同時に、これからも英語、日本語にかかわらず、良い絵本を沢山 探して 子ども達と一緒に読んでいきたい という思いを新たにしたのでした。

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