日本多読学会児童英語部会2019年秋のセミナー

2019年11月17日、日本多読学会児童英語部会2019年秋のセミナーに行ってきました。ベテランの先生方がご自身の工夫や実践を惜しみなく披露して下さり、またさまざまな質問にも答えて頂けるまたとない機会なので毎回参加して勉強させて頂いております。今回も初めて見る教材やクリスマスの絵本、eブックを導入した貴重な実践例等を紹介して頂き非常に有益な時間となりました。

その中でも豊田高専の西澤一先生のお話は、毎度エビデンスに基づいた説得力のある素晴らしい発表で、今回も大変ためになる内容でした。

まず豊田高専で多読を7年続けている生徒さんのTOEICの平均点が627点、同校で途中に英語圏に10か月留学した生徒さんの平均点が606点(とはいえ全国の語学文学系英語専攻の平均点より高い)という数字が示され、多読の効果が実証されていました。

それだけでなくさらに興味深かったのが、累積読書量が同じ5年継続者と7年継続者のスコアを比較したところ7年継続者のスコアの平均点の方が高かったということでした。これはつまり多読を長期に継続しながら、一気読みよりのんびり長く続けることの意義が改めて確認されたということなのです。

また図書館で多読を楽しんでいる人たちを、多読歴ごとにグループ分けして、多読による変化についてアンケートを実施したところ、最初期から苦手克服、聴き取り、読む力、関心の広がりなど、さまざまな良い変化の実感が挙げられるそうですが、多読歴5年以上のグループから、初めて話す、使うというアウトプットへの効果を実感した結果が出てくるそうで、こうした事からもやはり多読は継続することが大切というお話でした。

こうした結果を得て、西澤先生は多読を長く続けるには小中、中高、高大連携の多読プログラムや生涯学習への接続等の工夫が求められるとし、その一環として図書館での多読を広める活動を始められています。

その結果、中部地方には既に英語多読教材を収蔵した図書館が多数出来つつあり、そこから多読の同好会が次々と誕生し、若い方からシニアの方まで、大勢の方々が多読を楽しんでいるそうです。

学生だけでなく老若男女がワイワイ楽しく多読をやっている姿が思い浮かび、心が温かくなりました。同時に多くの人が多読を継続できるようあちらこちらの自治体に働きかけていらっしゃる西澤先生の無私のお人柄に深く感銘を受けました。そしてその行動力に大きな刺激をもらいました。

今回の部会は、改めて、学童保育である成城楓塾の多読の目標は何なのか、頭を整理する機会にもなりました。

英語塾よりも子どもと多くの時間を過ごすことが出来る学童保育だからこそ出来ること。それは、(西澤先生が実施された多読による変化を問うアンケートの中にも出てきましたが)、興味、関心をより広げることだと思います。

そのために、今後も日々、子どもたちとおやつを食べて遊んで話をすることが出来る学童保育の良さを生かし、今まで以上にお子さん一人一人の関心、日々の出来事にリンクした教材を提供する努力を続けていきたいと思います。

また、英語の児童小説には、シリアスな社会問題が織り込まれた作品がたくさんあります。常日頃から英語圏の子は十代早々からこんな本を読んでいるのか驚くと同時に、日本の子どももそういった作品を多感な思春期のうちに読めればよいのにと思っていました。今後は、これも成城楓塾の多読の目標の一つにしたいと思います。(もちろん、楽に面白く読める簡単な本を読むという原則を大切にしながら、ですが)

なぜなら、自分自身で見つけた問題意識を持つことこそ興味関心を広げる鍵で、それを追求することが能動的に学ぶ事であり、これからの社会を生きて行く上で一番大切な技能と考えるからです。

それが出来るようになった人は、きっと一人でも、たくましく読んで、学んで、成長し続けることが出来るのではないでしょうか。

結局、成城楓塾の多読の一番の目標とは、一人で読み続けられる人を育てることなのかもしれません。

多読は、従来の試験対策に直結したいわゆる「受験勉強」とはかなりイメージが違うかもしれません。しかし、受験の仕組み自体、近年大きな変化を遂げています。昨今、大学受験にAO方式が多く取り入れられるようになってきているのは、学校側も受験生の知識だけでなく本当の意味の学習能力をみるようになってきている証左でもあると思います。こんなふうに多読で自主学習力と英語力を鍛えてきた子は、これからの入試にも力を発揮できるのでは、とも思っています。

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