②なぜ成城楓塾では多読を取り入れているのか。

多読支援者養成講座の一週間前、NPO多言語多読の多読祭りがあり、私と長女はそちらにも参加させて頂きました。

地方からいらした方、小さな子どもを連れた若いご両親等で大盛況の中、多読の創始者であり、「辞書をひかない」「簡単な絵本から始める」「わからない文法や単語にはこだわらずに読み進める」「つまらないと思ったらやめて別の本を読む」という多読三原則を提唱しつつ、さらに多読をtadokuとして発展させていらっしゃる酒井邦秀先生ご自身から、このメソッドが生まれた経緯を伺いました。

1980年代当時、酒井先生は大学の英語教員として学生に英文の論文を配布し、それを順番に精読させるというオーソドックスな授業を実践されていたそうです。

ある年度初め、英語の科学記事を配布し、訳しながら解説するという授業をおこなったところ、学生から、「こんな難しい英語がわかるんだったら、僕達はここにいません」という意見が寄せられたそうです。生徒さんの英語力を向上させるため日頃から工夫を重ねていた先生にとって、この言葉はショックなものでした。

考えあぐねた酒井先生は、次の授業で、ご自宅に持っておられた沢山の英語絵本を教室に持って行き、こうおっしゃったそうです。

「先週の私の講義が分からなかった人はこれから1年間、講義中こういう絵本をずっと読んでいていいよ。その代わり成績は「可」にします。今まで通りの講義を受けたい人は普通にテストを受けてもらって成績はその点数により優、良、可のどれかになります。どちらか好きな方を選びなさい」

それを聞いて半分の生徒が今まで通りの英語の講義を選び、残り半分の生徒が毎週の講義中、酒井先生が持ち込んだ英語絵本を自由に読むようになりました。

すると、絵本を読んでいるグループの方がずっと熱心に英語に触れているように見えた 上に、一年後には、こちらのグループから、大人向けの洋書を読み出す生徒が二人も現れたのだそうです。

これまで長い間、英文和訳や解説をする講義を行ってきた中で、自主的に洋書を読む生徒など一人も現れなかったのに、指導もせず、好きに絵本を読んでもらっていただけのグループから、自ら洋書を読む生徒が現れた、という予想外の出来事が、多読の研究を始めた発端だった、とのことでした。

生徒の英語力を向上させたいという情熱に加え、冷静な観察力がなければ、こういう気付きはなかったでしょう。さらに、そこから研究を始めて、多読というメソッドにまで発展させた行動力と創造力は本当に凄いと思います。

1997年、SEGという塾が、この多読の講座をスタートさせました。

SEGは中高生の為の大学受験の有力塾です。そういうところが料金をとって、『辞書をひかず、単語や文法にこだわらず簡単な絵本から楽しんで読もう。面白くなかったらすぐにやめて、いつも楽しく読める本を読みなさい』という多読を取り入れたのは非常に思いきった判断だったと思いますが、大学入試にも通用する英語力の向上が実証され続けているからこそ、現在に至るまで定着しているのでしょう。(現在SEGはNPO多言語多読とは別の団体として多読の実践をおこなっています。)

私の娘二人もSEGで多読に出会いましたが、やはり大学入試に非常に役立ったと感じています。でもだから成城楓塾で多読をやっているのかと言えばそれは少し違うのです。

多読の効用は英語の受験勉強だけに全くとどまりません。

母国語ではない言語で書かれた本を読むという事は異文化を体験すること。日本に居ながらにして英語圏の人の思考にじっくり触れ合えるのは非常に興味深く、得難い機会ではないかと思います。日本が世界からどう見られているのかも直に知る事ができますし、他国が世界史等で教わるよりずっと興味深い身近な存在になる事もあるでしょう。逆に世界史がとても面白くなったりする場合もあるのではないでしょうか。(娘は理系でしたが世界史が大好きになり、センター入試でも敢えて世界史を選んだほどでした。)

もちろん歴史や比較文化的な視点を抜きにして、人間として「出合って良かった!」と感動するような本もたくさんあります。英語の本が読めるということは感動の機会が倍以上に増え人生をより豊かにしてくれる事だと思っています。

さらに娘二人が多読を続けるのを10年以上、そばで観察してきた者として、多読の一番好きなところはと聞かれたら「自分の読みたい本、楽しいと思える本を読むのが一番良いんだよ!と継続的に励まされる結果、英語だけにとどまらない能動的な学習態度、自主学習力を鍛えられるといった大きな副産物も得られること事」と答えます。

これはこれから成長していく子どもにとって何よりも必要なものなのではないかと思うのです。

このような理由から成城楓塾では学童保育でありながら多読を取り入れています。そしてこれからも丁寧に続けていきたいと考えています。

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